色778

不思議なものを追いかける/らせんの宿、phantom twins

村はそうして存続してきた「破船」

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破船(吉村昭)

これは辛い。
終盤のやりきれなさは言葉にならない。

このカテゴリでは史実に基づいたお話のみ取り上げるつもりでしたが、この「破線」は小説でした。読んだ後で気がつきました。でも、小説で扱っているような話は日本にいくらでもありました。※寄船

あらすじ

貧しい漁村が舞台で、人々は漁で生活の糧を得ながらほそぼそと暮らしていた。
その年の漁が思わしくなければ人々はすぐにでも飢え、小さい子どもなどは簡単に命を落とす。
そんな暮らしのなかで人々が心の支えにしていたのが「お船様」と呼ばれる風習だった。

「お船様」というのは、冬場の荒れた海の夜に浜辺で煙を起こし、人家があると思って近づいてきた商船を座礁させて、積荷を奪うという村の風習。

僻地の漁村はこの「お船様」によってかろうじて支えられていた。
「お船様」がこない年には、飢えから逃れるために家族の誰かを年季奉公に出さなければならず、10年も年季奉公に出せば若い娘は婚期を逃し、貰い手をなくす。また奉公は過酷で、生きて帰れない者も大勢いた。

そんな暮らしだったから、「お船様」が来た年にはそれこそ村人は涙を流して抱き合った。
彼らにとって「お船様」は文字通り神様であり、海からの贈り物だった。

だがある年にやってきた「お船様」は漂流船で、中の人々は死に絶えていた。骸は一様に赤い着物を着ていて、それらを奪い分配した村に悲劇が訪れる……。


小説の裏表紙にはもっと短いあらすじで、赤い着物を分配したことで悲劇に見舞われると書かれているのですが、その話が出てくるのが物語の終盤。内容の7割は漁村の暮らしが描かれています。
だからといって退屈なわけではなく、巧みな筆致によって浮かび上がるような漁村の情景が広がり、どんどん引き込まれます。
漁村の荒々しさや、そこで生きる人々のしたたかさ、過酷さなど魅了されました。

ページ数も220ページと短め(新潮文庫)なので、お手軽な部類。

感想。

ややもすれば私らは習俗や風習といったものを軽く考えがちだけど、祖先の生活はそういったものに長年支えられてきたんだな、と感じます。
貧しい集落であるほど、したたかな信仰と厳格な掟に依らなければ存続できない。
「破船」の終わりは悲劇的でしたが、漁村の存続という一点においては比類のない力に満ちたお話です。

赤い衣を着ていた骸たちは疱瘡に覆われていて、それを剥ぎ取り、分配しだしたところで、やばいと思いながらページをめくってましたが、案の定の展開でした。

終盤の描写は少々きつく万人向けではないけれど吉村昭さんの小説が好きならオススメ。個人的には好きです。

  1. 2017/07/20(木) 20:23:00|
  2. 映画・小説レビュー

夏山での遭難「トムラウシ山遭難事故」

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トムラウシ山遭難事故

2009年7月16日、早朝から夕方にかけて北海道大雪山系トムラウシ山が悪天候に見舞われ、ツアーガイドを含む登山者8名が低体温症で死亡した事故。

ちょうど8年前の今日。
真夏日にもかかわらず多くの方が低体温症にかかり、その恐ろしさを世に知らしめた事件。


以下の流れはウィキから抜粋、一部改変。

7月14日、パーティ18名は旭岳ロープウェー姿見駅を出発し、白雲岳避難小屋に宿泊。夜から雨が降り始めたものの、この日は晴れていた。

7月15日、予報で寒冷前線が通過することがわかっていながら、出発。天候は朝から大雨。全員雨具を着用し、16キロの道のりを歩きヒサゴ沼避難小屋に到着。
小屋の中は雨漏りだらけで濡れた装備を乾かすこともできず、ずぶ濡れの寝袋に包まって横になった。展望もない登山で泥道を長時間歩いたため、皆疲労困憊していた。

7月16日、強風に吹かれながら川を渡り、多くの人がずぶ濡れになった。客の一人を支えていたサブガイドも全身ずぶ濡れになった。
(ガイドは、添乗員を兼ねたガイドリーダー、メインガイド、サブガイドの3人がいる)

女性の一人が低体温症のために歩行困難となり、その介助のために強風のなか全員がその場に1時間待機させられた。
その後、簡易テントを設営し、女性とガイドリーダーを残し、一向は先に進む。
しかしその後、歩けなくなる者が続出し、北沼付近で再び緊急野営。メインガイドとツアー客4名を残し、サブガイドとツアー客10名の計11名が先に進む。

サブガイドは遅れた人を待つことなく進んだので列が伸びきって全員がバラバラとなる。
サブガイドが途中で動けなくなり、後ろをついてきた女性客と男性客がそのまま下山。(このとき女性が最初の110番通報)後続していた8名のうち3名も自力下山。

メインガイドの野営地では女性2人の脈拍が停止。メインガイドが引き返し、ガイドリーダーと女性一人も絶望的な状況であることを確認する。メインガイドが会社にメール。

残った7名のうちガイドリーダーを含めた4名が亡くなる。
下山していた11名のうち4名が亡くなる。

事故の要因・背景はウィキで。

この事件、ガイド3名はそれぞれ登山経験者だったが、トムラウシ山の登山経験があったのはメインガイドの一人だけで、3人は現地で初めて顔を合わせたようです。
登山の前、ガイドリーダーとサブガイドの2人は、このツアーが危ないという自覚があったが、社の方針には口出しできなかった(ガイドの雇用形態は一回ごとの契約で雇用保険はなし)。
ガイドの判断ミスがあったのは確かだけど、立場を考えれば、選択の余地がなかったところもあるように思う。

今でも毎年のように色んなツアーのトラブルが相次いで報道されますが、私は山だけは特に気をつけたほうがいいと思う。
入念な準備をして、あらゆる角度から計画を見直して、信頼できる人と組んで、それでも危ないのが山だと思う。寒冷前線が長い間留まるなど、山は気象も気候もあらゆるものが平地とは異なっていて、慣れている人でも想像だにしないことが起こる。
昔の人は山を恐れたけど、山は異界ぐらいに思ったほうがいい。オーバーな表現でもないと思う。


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低体温症について

体温が35℃以下になった病態。疲労との関係が深く、トムラウシ山遭難事故でもヒサゴ沼避難小屋でしっかり食べる、休むなどできていなかったことが後の悲劇につながっていく。
加えて翌日、水に濡れた状態で、暴風に晒されたために一向は急激に体温を奪われていった。

(気温6℃、風速15メートルで体感温度は-10℃、事件当日の気象条件はこれ以下だった言われている)

低体温症は夏でも起こり得る

夏の山で起こった症状であるように、気温の低下だけが低体温症につながるとは言えない。マラソンのランナーが汗と疲労によって低体温症になった例もあるし、赤ん坊が濡れたままのオムツを変えなかったことで死亡した例もある。
また体温が下がると正常な判断ができなくなるので、携帯を持っているのにそれに思い至らないということにもなりかねない。
最後に亡くなられた方のご冥福をお祈りします。

参考『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』

私がこの事件から得た山の教訓は。

・ツアー会社をよく調べる。
・複数人での登山はリスクのある行為と考えておく。(色んな人がいる)
山のプロでも、会社には逆らえないかもしれない。
・ガイド任せにせず、エスケープルートを自分でも把握しておく。
・しっかり食べる、休む。
・雨対策をしっかり。
・そもそも登山に行かないのもあり。

  1. 2017/07/16(日) 18:27:23|
  2. 映画・小説レビュー

最悪の島・漂流(吉村昭)

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漂流(吉村昭)

江戸時代の天明年間(1781~1789)シケに遭い、黒潮に乗ってしまった男たちは、絶海の火山島に流れ着く。

そこは無人島で水が湧かず、樹木すらも生えない。過酷な日々に男たちは次々と倒れていくが、土佐の船乗り、長平は12年間に及ぶ歳月を経て、ついに生還を果たす。

漂着先としては最悪の部類です。
上記に加えて、火山島の周囲に他の島はなく、近く通る船も全くない。救出の目はない。


この火山島、鳥島と呼ばれる島のことで、東京都庁から南に582kmも離れており、八丈島より青ヶ島より更に南にあります。

明治時代から戦前にかけて、一時期は人が住んでいたようですが、噴火や地震などがあって現代では東京都に属する無人の島。江戸時代にはこの島に流れ着く漁業関係者も多く、島で多くの人が亡くなっています。

唯一、長平たちが恵まれていたのは、この島はアホウ鳥の群生地だったこと。アホウ鳥を(生で)食べながら、雨水を啜り、飢えと渇きをしのぎますが、島での過酷な日々が次々と仲間の命を奪っていきます。

仲間を失ってからの長平の姿は痛ましく、見るに耐えなかった。空腹も乾きも辛いが、人間は孤独には耐えられない生き物なのかもしれない。

話は始終、絶望感が漂っているものの、他の漂流者が現れたときや、生活環境が少しずつ変わっていくところなど、「お」と思えるところもあって最後まで楽しめました。

島で12年間を生き抜いて長平は生還を果たすのですが、初めに書いたように長平を取り巻く環境は完全に詰んでます。
長平たちが何をしたのか、その方法は書かないでおきます。人を押し上げる力は希望と執念なのかもしれない。

記録小説というのか、資料を基に年代を追っているので人によっては読みにくいと感じるかもしれません。人物よりも環境や説明に力が入ってます。個人的にはオススメです。

  1. 2017/07/13(木) 21:39:20|
  2. 映画・小説レビュー

ディアトロフ・インシデント

まじか。ディアトロフ、インシデント。ディアトロフ峠事件の真相に迫ったらしいけど……違うんじゃないの! もう少しこうあったんじゃないの、他の説明のしかたが!

ディアトロフ峠事件

1959年2月2日、旧ソ連のウラル山脈北部でスノートレッキングをしていた男女9人が不可解な死を遂げた事件。

ロシアの最大のミステリーと呼ばれているだけあって、この事件、本当にわけがわからない。
概要はウィキにありますが、下の方のブログがより詳しく解説されていておすすめ!

ハナママゴンの雑記帳

一体何があった。
マイナス30度の極寒のなか、自らテントを切り裂いて移動し、再びテントに戻ろうとして5人が力尽き、残る4人は渓谷で体の内部を大きく損傷して死亡。


色々な考察がなされているけど、現実味のある内容でいうと雪崩ということになるのかもしれない。

他の可能性を考えるなら……ちょっと気になったのは事件後の流れ。
そして2015年に放送された「世界まる見え」

2015年、12月14日に放送された日本テレビの「世界まる見え」では、50年以上機密とされていた国家公文書館に残された捜査資料に学生の一人の残したメモがあり雪男は存在すると書かれていた。

1967年に書かれた本は、当局の公式見解以外のことや、当時すでに広く知られていた事実以外のことを書くことは避けたのにもかかわらず、出版禁止。
1990年以後は事件の詳細が出版物やメディアで公にできるようになり、グシュインさんの本がきっかけで、超常現象への関心が高まる。ここから何か新しい情報が出てくるかと思いきや、現在まで事件の再調査は行われず、2015年の「世界まる見え」で国家公文書館に雪男だってー!? 雪男が映ってる写真まであった! ホントなのこれ……?

真相をぼやけさせるためにはノイズを混ぜればいいとよく言われる話で、ここまでくると意図的に怪しげな話を織り交ぜて撹乱していても不思議はない(UFOなどの)。事件に何らかの形で軍が関わっていてもおかしくない。
2000年、ロシア当局に対して事件の再調査を求めるディアトロフ財団が設立された。

捜査当局が見落としたか、意図的に無視したとされる情報もいくつかあるとされている。急病でパーティを外れていたユーリー・ユーディンは軍の関与を疑っている。彼が仲間の遺品のなかから軍用のブーツカバーを見つけたことで、捜索隊よりも早く軍が来ていた可能性も残されている。

UFOも雪男もロマンがあるし好きだけど、この事件に関してはまだまだ現実味のある答えを追えそうな気が。

テントは2月26日、1959、内部から
画像はWikipediaより
  1. 2017/07/09(日) 21:42:04|
  2. 映画・小説レビュー

たった一人の生還

1991年12月29日午後8時頃に起きたヨットレースでの転覆事故。
レースに参加していた7名の乗ったヨット「たか号」は小笠原諸島父島沖で大波の呑まれ、その際の衝撃で一人が亡くなり、残る6名は夜の海へ投げ出されてしまう。

6名はライフラフト(救命いかだ)に乗り込んだものの、ラフトは非常に狭く、しかも備えつけられていた備品の多くも流されてしまっている。

ライフラフト
こんな形状

残されたのは、九枚入りのビスケットが一つ、飲料水が一本という絶望的な状況。イーパブ(救難信号発声装置)は作動しない。
(アカ汲みやスポンジなどもあったが、食料と飲料を失ったのが致命的)

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ここから6名の想像を絶する漂流が始まります。
山での遭難は怖いですが、海は海で怖い。山は場所によっては水場や沢がありますが、海はどうしようもない。食糧不足もさることながら、6名の方々も水を得られず、最後まで水を欲しながら次々と亡くなっていきます。

この転覆事故は「たった一人の生還」の著者である佐野三治さんだけを残して、他の方々は全員亡くなってしまうのですが、この漂流のなかで起こったことがこの本では克明に描かれています。

床の濡れた狭いラフトでのじめじめした感じ、臭気、不安、恐怖、限界を超えてからの幻覚、息苦しさなど圧迫感がすごい。現実に起こった事件を佐野さんご自身が書いているので、小説にはない生々しさがあります。一人称で読みやすく、一気に読み終わりました。

なぜ自分だけが生き残ってしまったのか、というのは悲劇的な体験をされた方に共通する思いなのでしょう。
生き残った者の務めともいうべき使命感が著書からはひしひしと伝わってきます。ありのままに事実を残そうという思いが執筆の原動力になっているように思えました。オススメです。是非。

  1. 2017/07/07(金) 01:01:35|
  2. 映画・小説レビュー
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