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不思議なものを追いかける/らせんの宿、phantom twins

タイムリープのおすすめ小説「酔歩する男」

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うっひょー、やばいやばい!
以前読んだ小説を今になってこのテンションでレビューするのもどうかと思うのですが、この「酔歩する男」に話が及べば気分の高まりを口に出さずにいられない。

小説『酔歩する男・小林泰三』

タイムリープものです。
過去から未来へと向かって伸びる絶対的な時間流れのなかを行きつ戻りつするのが多くのタイムリープものに共通する部分ですが、この「酔歩する男」は一風変わってます。

「時間の流れとは意識の流れであり、ヒトの脳内によって生み出されるもの」と仮説を打ち立て、時間を感知している脳の一部を壊すことで、タイムリープを成し遂げようとします。

登場人物のひとりは考えます。
この世界に存在するあらゆる数式は、時間の逆行を制限していないのにどうして我々人間は時間をさかのぼれないのだろうか。…それは物質を含めたあらゆるものの次の「状態」=時間を決めているのは意識による観測だからだ!

ベースになっているのは量子力学における波動関数の収束と呼ばれる量子過程で、ピンときた方もいると思いますが、コペルハーゲン解釈を巨視的に説明する思考実験シュレディンガーの猫です。

登場人物A氏「観測によって波動関数が収束し、物体の状態が固定される。この過程は逆転しない。つまり時間の流れとは、観測を行っている我々の意識の流れなのだ。意識を司っているのは脳だから、自分の脳の一部を粒子線ガン治療装置を使って壊す!」

とてつもない決断をするA氏ですが、もちろん彼はただ単にぶっ飛んでるわけではなく、ここには失った恋人を時間をさかのぼって助けるという強い動機があります。
読んでいた当時の私の気持ちを代弁すると、拳を握り締めながら「いっけえええ!」とA氏を応援してました。

で、脳の一部を壊したところ、どうなったかというと……。
うわあ、すごい、すごい話ですよ、これは…!
結果として脳の一部を壊したところでタイムリープが可能になったA氏ですが、彼の目論見とは外れていた。

A氏は一定方向へと進む時間をさかのぼるつもりが、彼の人生における様々な日時に飛ばされてしまうようになる。そしてA氏は理解します。
「時間は連続体ではなかった。5月14日午後1時0分0秒と午後1時0分1秒とはつながっていなかった。時間は連続していない点の集合だった」
時間は1,2,3,4…と続くものではなく1と2の間に無数の点があり、各々が独立した点であるニュアンスでしょうか。

その後、A氏がどうなったのか、失った恋人の正体が何だったのかというところまで含めて、この物語は恐ろしいながらも、ある意味では秩序だった世界の解釈を示してくれます。
タイムリープの方法に端を発し、世界の実相まで突き詰めて考えられているので、そういう話が好きな人はぞくぞくしますよ、きっと。

小説の終わりのほうにこんな言葉が出てきます。

「限られた理解力しかもたないわれわれの脳があまりにも複雑な世界に対面したときに壊れてしまわないために脳自身が設定した安全装置──それが因果律なのです。われわれが理解している世界はわれわれの脳の中の幻想に過ぎないのです。われわれ人間はその幻想なしには生きていけない」『酔歩する男』角川ホラー文庫より

どうですか、このセリフ。脳が世界を知る足かせになってるなんて、数学的な探求をしてる人ほど理解できてしまうんじゃないかと思います。
酔歩する男をタイムリープ方面からレビューしましたが、これは難しい時間の話ではなくストーリー性のある物語なので、SFが好きな人にはぜひ読んでもらいたい。
個人的な好みで言えば最高峰のタイムリープものです。
オススメ度★×∞


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  1. 2017/11/10(金) 20:55:22|
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